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Home from Home ハロウィン番外編 (fromとawayの間話・無料配布再録)

「じゃあ今日は、殿下たちはコーネリア殿下の所へ?」
 スザクを迎えたセシルが目を丸くした。
「ええ、そうなんです」
「まぁ。せっかくのハロウィンなのに、少し寂しいわね」
 日本人のスザクには少々馴染みのない感覚だが、ハロウィンの夜のお祭り騒ぎはブリタニアの秋の風物詩らしい。仮装のための衣装やお菓子の準備からパーティーまで、家族や仲間と盛り上がるには絶好の機会なのだそうだ。
 しかし、アリエス宮に住まう三人のうち、ルルーシュとユフィは招待を受けて第三皇子クロヴィス主催の非公式なパーティーに出席することになった。今夜はコーネリアと共に向こうに滞在する予定で、宮にはスザクが一人になる。
「確かに少し。でも来年からはユフィも寄宿舎に入りますし、いつまでもあのアリエス宮で三人というわけにもいきませんから」
 少しは慣れないと、とスザクは苦笑した。
 名誉ブリタニア人のスザクの位置づけは特殊だ。昨年の事件でコーネリアの信頼は勝ち得たようだが、スザクは表立って皇族に謁見を求めることのできる身分にはない。非公式とはいえ、高い皇位継承権を持つシュナイゼルやクロヴィスらが参加する場への同席など、雲を掴むような話だ。
 結局スザクの代わりにコーネリアが二人の守を買って出ることになった。彼女の専任騎士ギルフォードが、直々にアリエス宮までルルーシュとユーフェミアを迎えに来てくれたので、スザクは二人を預けて送り出し特派へとやって来たのだ。
「それはそうだけれど……そうだわスザク君! だったらここでお祝いしましょう。実験の後、ロイドさんも入れて三人で!」
「ちょっとセシル君、まさかとは思うけど、お菓子を手作りなんかしないよねぇ?」
 ぬっと顔を出してきたのはロイドだ。先ほどまで会話そっちのけでデータに釘付けになっているかと思ったら、どうやら身の危険を感じて現実世界に帰ってきたらしい。
「あら? ロイドさん。そうですね、今から実験を抜けて作るわけには行かないし、今回は出来合いのものを買ってきます。残念ですけど」
「だったら安心だよ~。そうじゃないと、仮装じゃなく幽霊にされちゃ……ひいい、なんでもありません!」
「ロイドさん? 仮装じゃないフランケンシュタインにして差し上げてもよろしいんですよ?」
「いやいやいやいや、遠慮しておきます」
 言いながら慌てて去っていく上司の姿を見送って、スザクもパイロットスーツに着替えるために席を辞した。
 騒がしくしてくれている二人が、スザクを励まそうとしてくれている気持ちが伝わってきてこそばゆい。心配されるほど落ち込んでいるわけでは無かったのだが、やはり町中がお祭り気分で浮かれている中、真っ暗な家に帰るのは寂しいものだ。こんなささやかな事に一喜一憂できる平和な今がどれだけありがたいものか、少なくともそれが当たり前ではないことは、戦場を知るスザクは痛いほど知っていた。
 
 
 今日の分の訓練が終わり、ロイドとセシルと三人で夕食に出ようとしたところで、特派にスザクを呼び出す旨の連絡が入った。
「何かあったんですか??」
 スザクは俄かに表情を変えた。スザクに召集を掛けてくる可能性がある人間など限られる。皇族が何人も参加するパーティーの警護に穴があるとは思いたくないが、世の中に絶対はないのだ。
 すぐさまセシルが、知らせを受けた特派のオペレーターに確認を取る。その表情を食い入るように見つめながら、スザクはすぐにも駆け出したくなる自分を懸命に抑えた。途中で彼女の表情が明らかに和らいだのを見て、スザクもやっと、少しだけ肩の力を抜いた。
「緊急ってことじゃないみたいだわ……。ルルーシュ殿下が予定を変更なさって、今夜アリエス宮に戻られるそうなの。だから、スザク君に迎えに来るようにって」
「僕がですか?」
「あら、あなた以外に誰が行くっていうの?」
「それは……そうですが……」
 見るからに生粋のブリタニア人ではないスザクが顔を出すことは、ルルーシュやユフィの不利に働くのではないか。昨年、貴族の屋敷で幼いルルーシュに庇われた経験は、スザクが慎重になる理由には十分すぎるものだった。自分は守るために居るのであって、守られるためにこの立場を与えられているのではない。
「あなたが身構えるのもわからないではないけれど、今回に限っては安心していいと思うわ」
 スザクの逡巡を見越して、セシルが微笑した。
「?」
「あなたを呼んでいるのはシュナイゼル殿下よ」
「シュナイゼル殿下……まさか、宰相閣下が?」
 次の皇位にもっとも近しいと噂される第二皇子は、現在宰相として国内外の政の多くを取り仕切っている。メディアで彼の姿を見ない日はないほどだ。雲の上の人間という意識が強すぎて、自分が呼ばれているという実感が湧かない。
 呆然とするスザクの様子を緊張と取り違えたのか、セシルは励ますようにスザクの肩を叩いた。
「あの方は出自を重視されるような方ではなくて、どちらかと言えば非凡な人間がお好きなの。特派そのものが殿下の指揮下にあるのはあなたも知っているでしょう。ロイドさんを組織の長に据えようだなんて冒険をなさるような方よ。いつも通りのあなたでいれば、少なくともあなたの出身を理由に不当な扱いをされるような方じゃないわ」
「無能な人間には容赦ない人だからねぇ、そこの所は注意したほうがいいとは思うけどぉ?」
 横からロイドが顔を出す。
「ロイドさんたら……。スザク君なら大丈夫です」
「僕は可能性の問題を言ったまでなんだけどねぇ……。さてスザク君どうする? どうせついでだ、僕とセシル君が君を送っていってもいいけど?」
 案に、伯爵の位を持つロイドがスザクの後ろ盾を買ってくれているのがわかり、スザクは首を横に振った。
「ありがとうございます。でも、ロイドさんに庇ってもらうのは違う気がします」
「そっかそっか。じゃあ、アリエス宮で降ろしてあげるよ。さあ乗って」
「はい!」
 スザクはロイド達とともに、トレーラーに乗り込んだ。
「今夜の埋め合わせはまた今度にしましょう! 時間があればケーキを焼いたりできるし、私も楽しみだわ」
「……セシル君、それは……」
「ロイドさんにはとっておきの特大プリンをご用意しますからね!」
「……オ~メ~デ~ト~ウ」
「あはは……」
 げっそりと肩を落としたロイドに苦笑しつつ、スザクはルルーシュのことを考えていた。
 どうして急に、帰りたいと言い出したのだろう。
 緊急事態ではないということは体調不良の線は薄い。
そしてルルーシュの性格からすれば、何かしら悪意ある扱いを受けたとしても、ちょっとやそっとでは引き返してこないだろう。それだけはスザクにも断言できる。そんな主だから、なおのこと心配なのだ。
 
 
★☆★
 
 
「やっと来たか、スザク」
「……ルルーシュ…でんか?」
 思わず忘れそうになった敬称をなんとか付け足しながら、スザクは呆然と主人を見た。
 今日が仮装する日だというのはわかる。だが、普段年齢よりずいぶん大人びた様子のルルーシュが、まさか黒猫の仮装をして猫耳まで付けている様など誰が想像するだろうか。
 しかも頬が赤い。目もとろんとしている。足元もおぼつかないのか、ただ立っているだけの今も頭がゆらゆらと揺れているような状態だ。
「君が枢木君かな? いつも弟がお世話になっているね」
 微笑を浮かべてルルーシュの隣に立っているのが、メディアで見慣れた金髪の美丈夫、シュナイゼルだった。
「お初にお目に掛かりますシュナイゼル殿下」
「ああ、堅苦しい挨拶は抜きにしよう。なにしろルルーシュがこの状態なものだからね」
「あの……ルルーシュ殿下は一体……」
「間違ってカクテルの入ったグラスを呷ってしまってね。少し休ませたんだが、アリエス宮に帰ると言い張って聞かない。普段は子供らしいところ一つ見せない弟なので意外だったが、コーネリアが君を呼べば大丈夫だろうと言うので来てもらったんだよ。遅くにすまなかったね」
「いえ、滅相もないことです」
 スザクがあわてて首を振る。平たく言えばルルーシュが酔っぱらったということだろう。まだ十二歳というルルーシュの年齢を考えれば許されるものかもしれない(何せ、そんな年歯のいかない子供の手の届く場所にアルコールの入ったグラスを置くほうも大概だ)が、ルルーシュの失態には違いない。
 スザクはやれやれと、目の前のルルーシュを見た。
「何だスザク、何か文句でもあるのか」
「……いえその……」
 常ならぬルルーシュの様子に、スザクも途方に暮れている。
 するとルルーシュが、千鳥足そのものの危なっかしい足取りでスザクの方に歩み寄って来た。
「ちょ、る……!」
 思わず呼び捨てにしかけた名前を寸での所で飲み込んで、スザクは屈みこんで小さなルルーシュに体を抱き止める。無事にキャッチしてほっと息を吐いたところで、ルルーシュが耳元で囁いた。
「このまま酔ったふりでアリエスに帰る。適当にあわせてくれ」
「!?」
 急に素面に戻ったルルーシュにぎょっとして、スザクは思わず硬直した。ルルーシュの意図が全くわからない。明らかに酔っぱらっているように見えるが、仮にこれがふりだとして、そんな芝居を打ってまでルルーシュがアリエス宮に帰らなければならない理由などあるだろうか。しかも黒猫の仮装のまま、さらにはユフィを置いて、だ。
「? 枢木君?」
「あ、いえ! なんでもありません」
 思わず、日本人特有のあいまいな笑顔を返しながら、スザクは腕の中のルルーシュに愚痴を言いたくなった。
 スザクは頭脳派ではないのだ。体力勝負の大立ち回りならともかく、不意打ちのぶっつけ本番で、宰相閣下の前でこんなひやひやするようなやりとりを演じさせられるのは心臓に悪すぎる。
「それでは殿下、ルルーシュ殿下の御身、確かにお預かり致しました。アリエス宮に戻り次第休ませますので……」
「よろしく頼むよ」
「イエス、ユアハイネス」
 スザクはルルーシュを抱えたままなんとか一礼すると、ルルーシュを抱き上げて今来た道を戻った。行きに使った馬車に乗り込んでやっと、ほっと息を吐く。
 
「で、ルルーシュ。どういう事?」
 誰に憚ることもなくなった車内で、スザクはルルーシュに聞いた。黒猫を模した耳を揺らして既にうとうとと船を漕ぎかけていたルルーシュは、億劫そうに顔をあげた。
「……兄上のお誘いを断るのは立場上まずいだろう? だが今夜中には帰ろうと思っていた。だから、酔ったふりをして見せたんだ…」
「酔ったふりって……どう見ても酔ってるけど……」
「そりゃ、酔っぱらいの真似をしようにも、そんな輩を間近で見る機会なんてないからな。疑われたら厄介だろう。だから手っ取り早く確実に……ジュースのような見た目で酒らしきものを飲んだ」
「それでこの状態なんだ」
 スザクはやれやれと、ルルーシュの顔を覗き込んだ。
 白い肌がアルコールのせいで上気して、目も潤んでいる。子供の域をわずかに出かけた彼の容姿は、美姫だったという母親に似たのか美少女じみて美しかった。これでもしルルーシュが女の子で、年齢がもう少し上だったら、いくら身内のパーティーとはいえどうなっていたか分からない。
無防備すぎると苦言を呈すべきか考えて、結局スザクは何も言わなかった。ルルーシュは普段は聡明な子供だし、いたずらに身を粗末にしたりもしない。それに、今大事なのはなぜそんなことをしたかだ。
「で、なんで帰ろうと思ったの?」
「それは……」
 酔っているからか、言おうか言うまいか迷っている様子が手に取るように分かった。しつこく問いを重ねれば、やがて観念した様子でルルーシュが口を開いた。
「お前が一人になると思ったからだ……あそこの夜は静かすぎる」
「へ?」
 言うが早いか、ルルーシュはスザクの膝めがけてこてんと体を倒してしまった。
「ちょ、ルルーシュ??」
 スザクは慌てたが、膝の上に寝られてしまえば顔を覗き込むことはできない。もの言いたげに見つめてみてもルルーシュは応じなかったが、その耳が少し赤くなっていた。それがアルコールによるものか、照れによるものかはわからなかったけれど……。
「そっか……ありがとう、ルルーシュ」
 くしゃりと、ルルーシュの細い髪を撫でて、スザクはほほ笑んだ。ルルーシュは、かつてアリエス宮で一人で過ごしていた頃の話はほとんどしない。だからスザクはユフィの話を通して想像するしかないけれど、今ぽつりと漏れた言葉はその時の経験からくるものなのだろう。
「ありがとう。明日は僕がお菓子作ってあげるからね」
 
 スザクは知らない。
 ルルーシュが夢現で、(お前がまともに作れるのはホットケーキだけだろう)と応じたことは。
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