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Home away Homeサンプル (Home from Home続編/2010夏コミ発行準備号サンプル)

(夏コミ配布HOME続編サンプルです)




 
「お前の今日の役目、理解しているな?」
 
 手に馴染まない借り物の剣の感触を確かめていたところに、問いが降ってきた。腰掛けているせいで僅かに見上げることになる声の主は、端正な作りの顔に、少々不敵とも物騒とも取れる笑みを浮かべている。
「これで戦うこと、だろ?」
 小さなため息を噛み殺して、スザクは答えた。
 彼のために戦うことに不満があるわけじゃない。ただ、いくつかの要因に心がざわつくだけだ。そして、そんなスザクの心情など、ルルーシュは知りもしないのだろう。
「違う。俺が求めるのは結果だよ、スザク。全ての試合に必ず勝て。できるだろう?」
 軽く首を傾げて問う仕草に、数年前の面影が重なる。
 スザクはその面影を閉じ込めるように一瞬だけ目を閉じて、静かに応じた。
「イエス、ユアハイネス」
 ――道具は、主人の真意を理解する必要はない。
たとえ代用品であれ剣の役目を帯びるのなら、求められるままに敵を屠ればいい。握った剣に再び目をやり、そう自分に言い聞かせる。
「そうだ、それともう一つ」
 再び声が降ってくる。ルルーシュは、スザクの肩にそっと手を置くと、微笑を含んだ声で告げた。
「必ず全勝しろ。だが、傷を負うことは許さない。いいな?」
「……うん」
 頷けば、ルルーシュが満足げに微笑みを深めた。
 まぶしく感じたのは、決して彼の背後に位置する天窓から差し込む光のせいじゃない。
 ルルーシュが昔と変わらない部分を見せる度、胸のどこかが微かに痛む。
それは、変わってしまった今を自覚しているからで、さらに変わってしまうのだろう未来を恐れるからだ。
 健やかに育って欲しいと願ってきた彼の成長は、本来なら喜ばしいもののはずだった。なのに、彼が大人になる兆しを見せる度、スザクの胸は焦燥と悲哀に黒く焦げ付く。
 それは、認めてはいけない感情だった。だから必死に押さえつけて、何事もなかったように振る舞うしかない。
 スザクに許されることと言えば、運命の砂時計の砂が落ちきるのを、為す術無く黙って見つめることだけなのだ。



「何が怖いの? ルルーシュ」
 覆い被さるように迫るスザクの体が、ルルーシュの上に影を作った。見上げてくる紫の瞳は強い光を帯びているけれど、戒めた腕は小刻みに震えている。
「僕が怖いの? どうして?」
 耐えかねたように顔を背けたルルーシュに、苛立ちを覚える。逃避を許さないために、細い顎を捕らえて引き戻した。
 ルルーシュと再び目があう。直後、彼がスザクの胸元にある傷跡を苦々しげに見つめたことも、手に取るようにわかった。
 ままならない姿勢の代わりとでも言うように、ルルーシュが目を閉じた。長い睫に押し出され、白い頬を滑り落ちた涙が、スザクの指を伝う。
痛ましいと思う心がないわけではなかった。
ずっと慈しんできたはずの相手だった。
それでも、まるでスザクの存在を閉め出すようにまぶたを下ろしたルルーシュに、やり場のない怒りが一段と増していくのを止めようがない。
スザクはただ衝動に任せて、晒された喉元に歯を立てた。
「っ……」
 悲鳴を押し殺した吐息に、背筋がぞくりと震える。
 自分の中の、残虐な一部が暴走を始める。ひどく安定を欠いた状態に不安を覚えながらも、理性による歯止めは掛からない。ふいに、暴走という言葉が脳裏をよぎった。まさにその通りだ。自分は今、取り返しのつかない過ちを犯そうとしている。
 ――でも。
(信じなかったのは君だろ)
 証のない関係で構わなかった。期限付きの居場所であることも弁えていた。ただ一つ、側に居ることをルルーシュが求めてくれていると、信じさせてくれさえすれば。……なのに。
「僕が復讐のために君の側に居た? そう人から聞いて、信じて、君は今こんなことをしているのか?」
この胸に残る焼きごての痕が、何だというのだ。ルルーシュに隠していたのは、ただ小さかった主人に醜い物を見せたくなかったスザクの意志だ。もう痛むことすらない、過去の遺物。スザクの出自を問題としなかったルルーシュとの関係を、こんなものに揺るがされるとは思っても見なかった。
 それでスザクが慰められるのなら、命以外ならなんでもと。火傷でも切り傷でも、甘んじて受け入れようと言ったのはルルーシュだ。
耳にした言葉の意味を理解して、ただ目眩がした。
スザクがこの五年間守り続けてきたのは、ルルーシュ自身にとっては、そんなにも簡単に投げ出せる物だったのだ。さらにルルーシュは、スザクがルルーシュを傷つけることで、気が済むとか晴れるとか、全く意味の通らないことを言う。
(あぁ、でも、今その最低を現実にしているのは僕だ)
 滑稽にもほどがある。乾いた笑いが唇から漏れた。
「……?」
 ルルーシュがうっすらと目を開ける。
「もういいよ」
 自分でもぞっとするほど、平坦な声が出た。





(ぶつ切り・短文申し訳ありません;;)
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